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ランニングを語る その4 初めてのウルトラ100キロ

丹後ウルトラマラソン完走記(初めてのウルトラマラソン)

軽快に走る事は快適であり、LSD(Long Slow Distance) )のマラニック(マラソン+ピクニック)は最高だ。フルマラソンの完走回数が50回を超え、次の目標として100回を意識する。毎月のように大会に参加し「佐藤クリニックの動く広告塔」と阿諛されたり、褒められたりした。この頃はフルマラソンを100回完走したら、達成したら「1ヶ月間のヒマラヤトレッキングを自分への褒美にする。そして足を洗う。」を予定していました。平成21年4月の「掛川・新茶マラソン」では念願の100回を達成した(註1)。満60歳だった。皆から祝福される。嬉しさ一杯の快晴の春の日曜日でした。この頃、ウルトラ100キロマラソンへの参加を、完走を次の目標に定め、仕切直しの朝(山中教授、授賞式翌日の挨拶から引用)とする。しかし、フルマラソンの2.5倍走るのだよ。意欲はあるが、いざ練習をするとその距離と制限時間に心はひるんだ。心の秘め事にしました。こっそりとエントリーし、こっそりと参加しました。途中放棄或いは棄権したら私の自分史から消しゴムで消し去るつもりだった。

意欲はあるが、いざ練習をするとその途方もない距離と制限時間にひるんだ。「こうなればままよ」とばかりに9月の丹後ウルトラ100キロマラソンに申し込む。密かな心の秘め事にしました。練習をしても、その先を見通せない不安に陥り、止める理由を色々探したが結局見つからない。1週間に100キロをノルマに、目標に夏をどうにか乗り切りました。それでも内緒にしておきました。公言できることではありません。楠美君とヒマラヤ遠征の少数の仲間には直前に連絡しました。骨を拾って欲しい、そんな悲壮な決意があったかも知れない。遂に号砲が鳴ってしまいました。

 

註  1

その日、掛川の「つま恋」まで祝福に来てくれたみめ麗しき女性MRさんがいた。ノバルティス・ファーマの長谷川ひとみ女史です。でも、私は、彼女が、僕の祝福に来てくれたのだとはなかなか気がつけなかった。「鈍」で愚かな男だね。無粋で鈍というのは私のことだね。

それでも、ランナー仲間で喜びを分かち合い記念写真を撮った。

家族からも職員からも、努力を賞賛された。

 

 

 

以下は日記の抜粋

平成21年9月20日(日)  晴れ  暑くない

 朝ご飯は午前1時過ぎです。食べられないが、食べなくてはと無理矢理押し込む。不安が一杯。いつでも止めるぞ。そう納得させる。

0430分号砲、真っ暗の出発。 参加者は約1.000名。七竜峠(海抜200メートル)に向かって前進。真に7匹の龍です。登っては降りる。登っては下るの連続です。リアス式海岸を朝日が染め始める。眼前に日本海が開ける。明石子午線の記念碑を通過する。東経135度です。久美浜湾を時計回りに回ってもう一度七龍峠を登って網野に戻る。この頃、楠美君と女房から激励の電話を貰う。40キロのエイドでうどんを食べながら暫し思案する。ファイテンのお兄さんにも相談する。止めるならばここだ。迷った末に、このままひたむきに前進と決定する。同じ後悔をするのならば、行動して後悔した方がよい。しないで後悔すれば後に悔いが残る。山岳部の先輩工藤さんの口癖だった。左の腸脛靱帯炎の徴候が出る。坂道で痛む。海岸線の網野から弥栄庁舎に向かってひたすら緩い坂を登る。それでも60キロキロを予定の7時間で通過(これはかなり良いペースです)。第2関門の弥栄庁舎も時間的には十分余裕を持って通した。残り40キロを7時間だ。ちょっと気分的に余裕を感じる。が、ここからが難所だ。碇峠へは標高差500メートルの登りだ。ビスタリ・ビスタリ(ネパール語でゆっくり・ゆっくり)だが、このつづら折りの峠道では誰にも抜かれない覚悟だ。この登りは辛かった。やがて降り始める。「これで登り切ったか?」とエイドで聞くと「これからが正念場ですよ」と笑顔で答えが返ってくる。右脚も痛い。70キロ地点では疲れ果てる。これから先は未体験ゾーンだ。眼を瞑ってもう一度自分に念を押す。碇高原牧場からは漸く下りだ。22℃、涼しい。天の恵みだ。完走するぞ。が、下りは脚に負担が掛かる。兎に角海岸まで降りきる。カク・カクとなりながら80キロに到着する。残り1/5だ。が、残りといっても20キロだ。気が遠くなりそうな距離だ。潮風に体を冷やされながら最後の登りに掛かる。87.5キロの丹波庁舎ではつみれ汁を馳走になる。体中においしさが染み渡る。このままここで座り込みたい誘惑、時間が過ぎるのを待ちたい気分に陥る。どうにか断ち切ってエイドのお姉さん達に拍手と笑顔に送り出される。ペースは確実に落ちた。後10キロだ。いつものトレーニングコースと同じだ。体に、心に檄を飛ばす。体に拍車を掛けようとしてもダメ。ムチを入れるが、効果無し。あと「4キロ」の看板が眼に入る。シュロの木の街路樹を眺めながら走り歩き。歩くが如くの走りだ。残り1キロだ。最期の左折をする。既に太陽は日本海に沈み始めた。陽の沈む前にゴールするのだという秘密の目標だったが、残念。街中の人が道路の両脇で拍手で、声援で応援してくれる。「もう少しだよ。」「よく走ったねぇ」の声援がエネルギー源だ。こんなに一生懸命応戦して貰ったら、カラカラのはずのエネルギーが湧いてきた。ハイタッチで送って貰う。そして、遂に、遂にものすごい拍手の中を両手を挙げてゴールインする。「おめでとう」「お目出度うございます」と誰もが声をかけてくれる。そして女子高校生に完走メダルを頸に掛けてくれる。握手を交わし、「有り難う」「何とか帰ってこれました」。 生ビールを飲む。指の先までアルコールが染み渡る。この一杯のために俺は頑張ったのだ。先ずは、報告を待ちわびている家族に「時間内完走」の報告。ランナー仲間にも報告する。 相手が驚き喜んでくれるのを聞いて、私自身も100キロを完走した事の喜びが一入になる。

その晩は、一緒に宿泊したランナーと反省会です。ビールを浴びるほど呑むはずだったのですが、フラフラになって寝てしまいました。

10KM 1時間7分    20KM 2時間14分 

30KM 3時間17分   40KM 4時間29分

50KM  5時間45分    60KM 6時間58分

70KM 8時間28分    80KM 9時間45分

90KM 11時間20分      100km 12時間31分17秒

女房や子供に完走の報告をしていると嬉しさがこみ上げてきます。大袈裟に言えば、60年間のまとめみたいにして走り込み参加した大会です。感謝し、込みあげてくるものを感じました。その頃ランニングの仲間に宛てたメールの一節を掲載してこの報告を終わります。

来年も走りますとはなかなか宣言できませんが、俺に出来ることはこのくらいのことだけだという強い想いです。想いと言うより、信念であり諦観です。才能とか、天賦の才というものに全く恵まれなかった私にとって、努力が報われるという快感をこのランニングで手に入れました。創造主は人間、一人一人に優れたものを与え賜うたと言うことが真実であるとするならば、私は一番効率の悪い忍耐を貰いました。しかしながら、自分の与えられた才能に気づかないまま、与えられたものを拒否したままの人よりは幸せですね。諦めながらも、その天賦の才を活かすことが出来ました。感謝です。

 この駄文を読まれた多く方は「よく走ったねぇ」と驚きながらも、「そんな非生産的なことに精力を注がなくても」と半否定的に肯定されそうですが、私自身もそう思っています。「愚行岩を穿つ」と言うことかも知れません。

 才能とか、天賦の才というものに全く恵まれない私にとって、努力が報われるという快感をこのランニングで手に入れました。人間には、各々優れたものが有る。ならば、私は「忍耐」を貰いました。その才を活かせる事が出来ました。感謝です。

註 1

これまでに11回完走(平成29年9月29日現在)

註 2

 自分で自分の写真に見惚れていれば世話の要らない阿呆ですが、このゴールシーンの写真は気にいっています。(カメラマンを褒めるべきですが・・)

テープを切った瞬間の満足感溢れた苦しそうな笑顔・ウェアーの波状の白い汗の塩のシミ(汗の塩が潮風で乾燥する。その塩が結晶化した跡です)私の自慢の写真です。

遺影10枚組の1枚に使いたいです。

棺桶に一緒に入れて欲しい写真の1枚です。

今はそう考えている。

                             2017年9月29日

 

 

追記

 今年(平成29年) 最後の、本当に最後の自分を納得させるつもりでエントリーしました。

 私は、性格的にはかなり天邪鬼でねじれ曲がっている。いじけた劣等感の塊みたいな所がある。

そろそろやめようか!

大きな事故を起こす前にウルトラマラソンからは引退しようか!

そんな自問いや、家族の勧めで止めるような素直な心は持ち合わせていない。

5月の野辺山ウルトラ100キロの余りに見苦しい敗退はいい教訓をもたらしました。

体力も気力も、自分で思っている以上に確実に、急速に衰退している。この夏で、どれだけ盛り返せるのか!!

やるだけやって、出来うる努力を最大限に尽くして、華々しく散ろう。散華するぞ。

完膚なきまでたたきのめされて退場しましょう。

潔くではなく、見苦しく、無様に、醜態をさらして終わりだ。

「最後の最後まで走ってTHE ENDだ」

ランニングに見苦しくしがみついている自分も嫌いだ。ランニングを捨てて新しい自分の創造だ。破壊なくして創造はない。全共闘の「造反有理」ではないが、インドのヒンディー教のシバ神になるぐらいのつもりだった。

が、雨も風も吹かなかった嘘つき台風18号の大嘘予想進路・被害予想に惑わされて金曜日の午後3時に早々と中止が決まってしまいました。

「散華してないねぇ、自分を納得させてないので来年は再挑戦するの?」

と聞かれたら

「聞くな!!」「愚か者!!」と答えることにしている。

乞うご期待。

 

 

 

 

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