佐藤クリニックロゴマーク

インフルエンザに纏わる2.3の事柄

インフルエンザ昨今

 

 今年(平成29年12月月下旬)もインフルエンザの流行するシーズンがやってきました。

インフルエンザのことを少しまとめてみました。

先ずは、日経メディカルの特集から抜粋します。

<<インフル・エンザワクチンの中身>>

A/Singapole H1N1 pdm09

A/Hong Kong   H3N2

B Phuket 山形系統

BTexus  ビクトリア系統

 

A型 2株、 B型 2株  合計4株のワクチンです。

ところが

今年(平成29年)のワクチンはあまり効果が期待できないかもしれない。

<< ワクチン株の選定と製造過程で問題が起きた>>

A3株は最近、卵馴化で抗原変異が、頻繁に起きるようになった(効果が劣化してきた)。そこで株を変えた。ところがその株は増殖効率が悪かった。結局昨年のものに戻した。

ワクチンにはA型2株、B型2株が組み込まれているが、そのうち一つであるAH3は有効率が低い可能性がある。アメリカでの有効性は35%、欧州でも同様だった。

今年AH3型が流行するとあまり効果が期待できない可能性がある。他の3種類は大丈夫です。

 <<インフルエンザワクチンをいつ接種するのがベストか>>

インフルエンザワクチン接種後、1-2週間でインフルエンザに対する抗体の値が上昇し、インフルエンザに対する免疫が出現します。抗体の値は、接種の2 週間後にピーク値に達します。インフルエンザワクチン接種後、2-3ヶ月するとインフルエンザに対する抗体の値はだんだんと下がり始めます。アメリカ合衆国では、冬季のインフルエンザ予防接種について、可能であれば十月末までに接種することが推奨されています。

 

<<抗ウイルス薬不要論>> 

低リスク患者には抗ウイルス薬不要と言うことが真面目に論じられているが、その考えには反対です。何故なら、私は臨床医としてて抗インフルエンザ薬のなかった時代とタミフルが出現した時代の大きな変化を実感しているからです。タミフルの出現はインフルエンザ治療にとって画期的な出来事でした。その変遷を目の当たりにして治療してきた医者の1人として抗ウイルス薬の効果を否定するが如くの意見には与することは出来ない。

この10年間ぐらいの統計でインフルエンザが直接原因で死亡する人は日本では200人から500人ぐらいです。アメリカ合衆国では毎年、3万人近い死者があるようです。これは積極的な抗インフルエンザ薬投与の恩恵だと思います。

<<抗インフルエンザ薬の予防投与>>

高リスク者は予防投与を積極的にすべきだと考えている。

現在インフルエンザ感染予防投与が認められているのは、タミフル、リレンザ、イナビルの3種類です。(但し保険診療は認められていないので自費診療になります)

 予防投与によってインフルエンザからの肺炎・そして脳炎の併発を防ぐことが必要だ。

施設の入所者では、蔓延を防ぐ為にも同室の人には予防投与が勧められる。

 話はちょっとそれるが、インフルエンザからの肺炎併発予防目的に、肺炎球菌の予防接種を強く勧める。公費援助のあるニューモ・バックスと援助のないプレベナの2種類のワクチンの接種を勧めています。

施設内でのインフルエンザ感染症の集団発生を防ぐ為には、ワクチンの予防接種、手指の消毒、マスクの装着と共に発症直後からの予防投与が勧められます。

 2月の入学受験シーズンになると予防投与について母親から相談されます。当クリニックではこんなふうに考えています。明日受験日という時に罹患すれば、試験を受けることに大きな支障が出来ます。人生の大きなチャンス・挑戦の場であるはずの受験がインフルエンザ如きに邪魔をされては堪りませんよね。予防投与を勧めます。防ぎうる障害は取り除くべきです。

<<鳥インフルエンザの恐怖>>

 ヒトインフルエンザで、現在まで流行を繰り返してきた型は、(H1, H2, H3) × (N1, N2) である。ヒトにはヒトインフルエンザ、鳥類(家禽)には鳥インフルエンザのみが感染すると見られてきたが、ヒトに感染する高病原性鳥インフルエンザ があることが分かった。 鳥類のうち、水禽の腸管にはインフルエンザウイスルは常在している。水中への汚物を介して高い感染率であるが、宿主は発症しない。ところが家禽(ニワトリ・ウズラ・七面鳥)に感染すると高い病原性を持つものがある。養鶏場での大量の鶏の死亡例がこれである。これらが高病原性鳥インフルエンザだ。このうちH5N1等のウイルスは人への発症を認めている。現在の処では、鳥→人の感染はあるが、人→人は確認されていない。しかし、人→人の感染が起こる可能性は十分にある。そうなると世界的なパンデミックになるとして警戒されている。というのは、水鳥の鳥インフルエンザウイルスが豚に感染し、一方、人のインフルエンザも豚に感染する。ヒトインフルエンザウイルス自体その豚の体内でウイルスが交差(変異)し他何らかの過程で変異して生まれたものだと考えられている。同じ過程を辿ると大変なことになる。

1.H5NI鳥インフルエンザ

 1997年に香港で発症。人に感染し高い死亡率。A亜型のウイルスです。

 2004年には中国、インドネシアなどの各地で発症する。家禽との濃厚接触歴ある集 団に発症。その後毎年その発症と地域が報告されてきたが、2011年以降では少なくなってきた。その代わりに出てきたのがA亜型(H7N9)です

1.H7N9鳥インフルエンザ

2013年3月、中国から鳥インフルエンザ(H7N9)の報告がある。最初の報告です

その後小康状態だったが、昨年(2016年)にはこの鳥インフルエンザの人感染例の急増があった。今年の10月までの1年間に759例の感染が確認され、290人が死亡している。致死率は38.3%と高率でした。

今のところこれらのウイルス感染は「鳥→人」だけです。これが「人→人」感染が始まると大変です。大パンデミック状態に陥ります。甚大な健康被害とそれに伴う社会的、経済的混乱が生じる恐れがある。かってのスペイン風邪のように全世界で何千万という死者が出るだろうと予想されます。交通網の発達によって人々の交流は活発になっているだけに未曾有のパンデミックになると予想する学者もいます。

タミフルも、リレンザも、イナビル等のノイロミダーゼ阻害剤の効果は限定的だとされています。但し、我が国には、富山薬品工業が開発したRNAポリメラーゼ阻害剤であるファビピラビル(アビカン)があります。この薬は、増殖抑制効果が認められています。現在の処切り札である。

 

註 1

アビカンは 新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症にのみ適応症

本剤を当該インフルエンザウイルスへの対策に使用すると国が判断した場合にのみ,患者への投与が検討される医薬品である.

この薬剤は、マダニ感染症であるSFDS(重症高熱血小板減少症)に対しても効果が認められた。承認された訳ではありません。ノロウイルス感染症にも効果が認められています。そして驚くなかれ!!あの殺人ウイルス「エボラ出血熱」の治療薬としても登場しています

 

註 2

SFTS

2011年中国で最初の報告があった。日本でも2013年に1例目が報告され、その後西日本各地で症例が報告され始めた。2014年には4月8例目の死亡が山口県で、6月には11例目の死者が高知県で報告された。8月26日の中日新聞では、38名の発症中16名が死亡したと報じている。

2017年08月

これまでに58名の死亡が確認・ペットにも感染・猫に注意。 ワクチン開発始まる。死亡率2割。怖いですよ。犬・猫を介して感染。どこで誰が感染するのか全く分からない。事実私もマダニには2.3度刺されたことがある。SARS以来の恐怖の感染症登場かと思っていたのですが、12月 アビカンの有効例が報告される。微かな光、曙光ですね。

 

<<世界史上に名前を残すインフルエンザの脅威>>

1.スペイン風邪

 一番有名なものはスペイン風邪(後にH1NI亜型と判明)です。この頃はウイルス感染だとは分かっていなかった。第一次世界大戦中(1914から1918年)に世界中で大流行した。アメリカ合衆国で発生し欧州戦線に参戦したアメリカ兵がヨーロッパに持ち込んだとされている。そして欧州でも大流行した。日本でも大流行した。全世界で感染者は5億人、死者は5.000万から1億人と推定されている。全人口の30%が感染したことになる。日本でも48万人が死亡した(総人口5.500万人)。

鴨のウイルスが豚に感染し豚から人に、そして人から人に感染したと考えられている。

 

註1

 この時代から本当の意味で世界規模になった。戦争は世界大戦となり、感染症もパンデミックという規模になった。アレキサンダー大王の東征とか、ジンギス・ハンの西征、

フン族の大移動という歴史上の大きな民族の大移動がありましたが、大陸をまたぎ、世界を股にかけての大戦争そして短期間の移動という意味では交通機関網の整備が整ったこの時代からが本当の世界規模と言うに相応しい。

 

1.香港風邪

 1968年から1969年  香港で流行

香港型[ A/H3N2]と表記  56万人が死亡

2014年にも流行した

 

 

1.ソ連風邪

1977から1978年  ソ連で局地的に流行

ソ連型[A/ H1N1] と表記  臨床症状は軽い

研究所に保存されていたウイルスが何らかの理由で流出し始めたことが原因と言われている。2009年のパンデミック2009H1N1 以降駆逐されてしまった

 

1. パンデミック2009H1N1

2009年春から2010年 3月

豚インフルエンザが人にも感染。 そして人→人感染となり2009年6月12日 WHOはパンデミックを宣言した。 メキシコとアメリカで発症した。死者は約14.000人

 

 

<<人類の医学の歴史は感染症との戦い>>

 医学は発達しました。医療技術の進歩は素晴らしい。真にその通りです。「国民病」と言われ「不治の病」と称された結核は、戦後の抗結核剤の進歩と共に激減しました。激減しましたが、撲滅にはほど遠いです。毎年、人口10万人当たり5人程度の新規患者の発症があります。

人類の長い感染症との戦いの歴史を顧みる時「この地球上から撲滅した」と宣言した疾病は「天然痘」だけです。1977年のソマリア人を最後に自然感染の天然痘患者は報告なし。その3年後WHOは地球上からの天然痘根絶宣言を発するに至った。天然痘は、人間に感染する感染症で人類が根絶できた唯一の例である。

この素晴らしい人類の勝利宣言には私達日本人が忘れてならないことがある。この達成の為に世界中を、身の危険も顧みず駆け回って種痘を続けた日本人医師中島先生の献身的な努力の賜であると言うことです。私の1人の日本人医師として中島先生を誇りに思います。

そして、日本では、ジェンナーの牛痘の6年前に今の福岡県の秋月藩の藩医緒方春朔が成功させていることも銘記しておきたい。

 

註 4

 中島先生の偉大な業績は医学の世界ではよく知られた事実だとばかり思っていました。書いてから念のため調べてみました。なかなか、先生の業績が見つかりません。

ただいま検証中です。

 

 

以下は佐藤クリニックで患者さんに渡しているリーフレットです

 

 

インフルエンザについて(平成29年)

 

季節性ンフルエンザは毎年冬に「渡り鳥」が中国の奥地から運んでくる風邪の親玉です。7年前、世界中で猛威を奮った新型は北米カリフォルニアから発症し、全世界に拡大し、日本でも大騒ぎになりました。

 

 

1.非常な急激な発症が特徴です 

 悪寒・発熱・頭痛・咽頭痛・全身倦怠感・関節痛・咳・水様性鼻汁・鼻閉 

 有熱期間は4-5日間で、39度を越す事が少なく有りません

一旦解熱した後、再発熱する例が30-70%に認めらます

解熱後、水様性鼻汁や咳が一週間ほど続く事がある

 

  1. 小児のインフルエンザの異常行動について

 発症後24時間以内の比較的早期に出現することが多い。症状は、うわごと を言ったり、興奮したりする。幻覚、妄想も認められる。発症すると非常に 危険です。保護者の方は小児 ・未成年者をしっかりと見守って下さい。

 

 

3.合併症

 熱性痙攣・中耳炎・気管支炎・肺炎・脳炎・心筋炎・等があり、特に乳幼児・ 若年者の脳症は重篤であり、又高齢者での合併症の発症予防 には充分な注 意が必要です

 

4.罹患した時の対処の仕方

 安静臥床が第一です !!

 水分、温かいお茶・スポーツ飲料 を少量頻回に摂取する

 頭を冷やし、下半身を温めて下さい(頭冷足温)

 

5.特効薬

 点滴薬ラピアクタが登場しました。タミフル・リレンザ・イナビルに次ぐ第4の新薬登場です。

この薬剤も早い時期(48時間以内)の治療開始が原則。

 治療効果も優れています。

 

6.今年の流行は?

 誰も分かりません。8年前の新型カリフォルニア株(A H1N1 pdm09)も突然の発症でした。

 出来ることはワクチン接種と早めの受診だけです。 

                平成29年  10月初旬  佐藤クリニック

 

                                    平成29年12月24日        脱稿

電話・FAX

TEL.0574-43-1200
FAX.0574-43-9050