佐藤クリニックロゴマーク

男性更年期障害とその周辺

更年期障害と言えば女性の、閉経後の中年の女性の病気という捉え方が一般的である。が男性にも更年期障害はある。女性ほど臨床症状が明確でないし、華々しくないので男性自身もその事で医療機関の、泌尿器科の門を叩くことは多くない。 成書を紐解くと加齢男性性腺機能低下(LATE ONSET HYPOGONADISM:LOH)症候群という疾患概念が提唱されており、LOH症候群の症状・徴候としては,リビドー(性欲)の減退,知的活動・認知力・見当識の低下および疲労感や抑うつ・短気などの気分変調,睡眠障害,筋肉量低下,体毛減少,骨量減少が挙げられている.また最近では,心血管イベントや全死亡率増加の可能性も指摘されている.しかし、これらの症状の中ではリピドーの減退以外はLOH症候群に特徴的とは言いがたい。 男性更年期障害について私の体験を、個人的主観をちりばめて、記載しながら興味を持って貰えるように書いてみます。

 

『朝立ち』MORNING ERECTION

 女性の「月経(メンス)のことを日本語の世界では「生理」と呼称している。しかし、生理とは女性だけの言葉ではない。男性にもある。男性の生理(オンス)とは「起床時勃起」である。浅いレム睡眠の時に内臓の一部である陰茎も勃起する。起きる直前のレム睡眠の起床時勃起が「朝立ち」である。ペニスは夜間のうち半分は勃起している。 もう少し、詳しく書けばレム睡眠期には、体の姿勢を保つ抗重力筋の緊張は完全に消失するが、反対に脳は覚醒時のように活発に活動している。副交感神経も興奮状態にあり、内蔵は動き、腸は食物を肛門に向けて送る。内蔵の一つと考えられるペニスも副交感神経の影響で勃起を繰り返している。勃起し、また静まり、と夜中に何度も繰り返している。これを夜間睡眠時勃起とよび、その夜の最後の勃起を朝目覚めた時に気付くのが「早朝勃起(朝立ち)であり、これが男の生理である。この朝立ちを2日に1回自覚していれば、LOHはない。

註  1

因みに筆者は10年ほど前から余り意識していない。LOH症候群の拙文を書き始めてから注意して「己の息子」を観察しているが、2日に1回はあり得ない回数だ。

夢精 WET DREAM

思春期以降の男性では睡眠中のレム睡眠期に同調して勃起現象(朝立ち)を生ずるが,このうち性的な夢などをみているうちに興奮が高まって射精をすることがある。極めて生理的な現象で,初めての夢精を精通と呼ぶ。青年期には頻回にみられるが加齢に伴って減少する。

 

註 2

20代、30代の結婚する前、独身時代の遺産だと思っている。20代の頃はよく経験した。夢の中で憧れの女性とSEXをする夢をみる。そして夢の中で射精してしまうのだ。射精感もあり、絶頂感もあり、開放感にも満たされるのだが所詮夢だった。翌朝起きるとパンツがゴワゴワになっている。結婚という性欲のはけ口が出来たことと加齢がその言葉を忘れさせてきた。50歳頃までは夢の中で女性が現れてくる。そして、抱きしめ、熱い抱擁を交わしクライマックスを迎えようとするその寸前で眼が覚めたり、女性が夢から消えてしまったりした。最後の『夢精』は何時事か記憶がない。

 

註  3

「結婚は性欲のはけ口にはなるが、恋愛の代わりにはならない」を常套句としとのたまわっていたのは戦後の文豪 太宰治である。

 

 

男性更年期障害の症状

本質的には男性も女性も同じである。男性にもホット・フラッシュはある。但し、男性の方が発症が遅い。そして性欲減退と勃起障害を合併している。女性は性ホルモンの急激な減少による自律神経症状が強くでる傾向が強く、男性は性ホルモンはある程度保たれているので、ストレスによる心因反応で抑うつ症状が強く出やすい。その差はある。又、男性の場合年齢によって症状に差があり、30~50歳台ではストレスによる抑うつ症状が出やすく、60歳台からはホルモン低下による顔面紅潮がでやすい。いずれにしろ男性の場合は性欲減退と勃起不全は必ず併発する。この症状がない抑うつ症状の場合は神経精神科領域の疾患単独であると判断している。

1)自律神経失調障害

   心血管系障害   血管運動神経障害による顔面紅潮(ホット・フラッシュ)、発汗、動悸(心悸更新)、

  胸部圧迫感、息切れ

   知覚障害群    手足のしびれ、腰や手足の冷え、 肩こり、腰痛

 

1)精神神経症的症状

  神経症症状群  神経質、くよくよ、情緒不安定、不眠

  抑鬱症状群   朝の無気力、億劫、厭世観、抑鬱感、易疲労感

男性更年期障害に特徴的な症状

  勃起障害 や 性欲の低下が必発である

 意欲の低下・集中力の低下・・メンタル的な訴え。軽いうつ症状。

 眠れない 早朝覚醒 筋肉痛 眩暈 耳なり

  うつ病として神経科で長年治療を続けているが、余り改善が認められない。そんな患者さんの中には

  男性ホルモン補充療法で劇的に改善する人がいる。

註   4

 女性の更年期障害でも経験することである。整形外科医をドクターハンティングし、鍼灸治療を受け、ヨガ治療、カイロプラスティーク療法を受けても一向に改善しない閉経後・中年女性の難治性の腰痛症に女性ホルモン(HRT)を投与すると劇的に改善する。そんな症例を数例ではあるが経験した。

 

必須検査

本症候群の診断には,血清遊離テストステロンの測定が必須である。血清遊離テストステロン濃度12pg/mL以上はホルモンレベルは低くない。8.5から12はグレー・ゾーンである。11.8pg/mL未満で有ればアンドロゲン補充療法の適応となる.血清遊離テストステロン濃度が8.5pg/mL未満の場合はアンドロゲン補充が第1選択となる.

但し、男性の遊離テストステロンレベルはかなり個人差が大きく、又女性のエストローゲンのように閉経と共に急激に落ちません。(女性は50から52歳の間の閉経を迎えエストローゲンは全例で20pg/mL以下に下がる。

 

血清遊離テストステロン値

健常男性の基準値は4.5~27.9pg/mLで,健常女性では2.7pg/mL以下である。遊離テストステロンと朝立ちの自覚率はかなり強い相関がある。

 

治療

  男性ホルモン筋注療法

   血清遊離テストステロンの濃度が8.5以下で有れば男性ホルモン治療を開始。

  注射方法

   初回 男性ホルモン(エナルモン・デポー)筋注 

   1回/2-3週 3回筋注

    注射するとテストステロンは翌日から上昇します。70%ぐらいの人には効果が認められる。

    直後から元気になる人もいれば、3回目で改善の人もいる。

  効果

    動いてみようかな  体を動かしてみようかな ジムへ行ってみようかな

    そんな時の運動は「筋トレ」と「有酸素運動」がお勧め。

  継続投与

  効果があるようであれば、筋注を継続投与する。

  軟膏療法

  注射はイヤだという症例やテストステロン値が8.5~12.0のグレー・ゾーンの人にはグローミン軟膏   (1%)を勧めます。一般市販軟膏薬です。効果を得るためには吸収率の良い陰嚢部、或いは顎の下を推奨します。

  但し、濃度が低いので治療効果の発現は遅い。

  個人輸入でアメリカの製品テストジェル50mgを取り寄せることも可能です。

 注意点

  男性ホルモン補充療法と前立腺癌の発症とは関係ない。

  若い男性にはホルモン補充は慎重にする。 精巣が造精能を怠けてしまう。

 

勃起障害(ED) 

勃起のメカニズム

 性的興奮によって副交感神経の骨盤神経が興奮する。その興奮によって一酸化窒素が放出される。放出されるとサイクリックGMPが増えてくる。次に陰茎海綿体平滑筋がサイクリックGMPの働きで弛緩する。そうすると動脈血流が良好になって勃起が起きる。勃起にはNOとサイクリックGMPが必要である。ところがcyclic GMP はPDE5(PHOSPHODIESTERASE5) で容易に分解されてしまう。

ここでバイアグラの登場である。

一酸化窒素は血管内皮の平滑筋を弛緩させ、それにより動脈を拡張させて血流量を増やす。これがニトログリセリン、亜硝酸アミル、一硝酸イソソルビド等の亜硝酸誘導体が心臓病の治療に用いられる理由である。これらの化合物は一酸化窒素に変化し、心臓の冠動脈を拡張させて血液供給を増やす。発毛剤ミノキシジル(リアップ)は cGMP 分解を抑制して毛細血管の血流量を増やす。勃起障害治療薬であるシルデナフィル(バイアグラ)も cGMP 分解抑制薬であり、cGMPが早期に分解されてしまうのを阻止する。陰茎動脈の血流を改善して勃起を計る。このメカニズムを利用したものである。

 

                                               令和2年4月3日  脱稿

電話・FAX

TEL.0574-43-1200
FAX.0574-43-9050