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アルコール依存症を考える(その 3 第3の薬剤販売されるも解禁ならず)

アルコール依存症を語る  

 

今年の3月5日に新しいアルコール依存症の治療薬が発売されました。

期待するところ大の画期的な薬だったので心待ちにしていました。大いに期待していました。ところが発売直前になって処方が制限されました。厚生労働省の担当部局がこの薬剤の乱用を、間違った使用を心配しての処置のようです。無知蒙昧で独善的・情動的な一般臨床医が請われるがままに処方することにより却ってアルコール依存症を増やしてしまいかねないという危惧が生まれた。アルコール依存症に対する認識に誤解を招きかねないと言うことからチョット棚上げになっています。現在処方の許可されているのはアルコール依存症に対して積極的に治療をしている精神科医のみのようです。

 

前置きはそれくらいにして

先ずは治療薬の概略

<<レグテクト>>

2014年発売 アルコール依存症・断酒補助薬

レグテクトの作用機序

 レグテクトは、飲酒欲求を減らす作用を持つおくすりです。患者さんは、「お酒を飲みたい」という飲酒欲求をどれだけ我慢できるかが治療の全てです。飲酒欲求を減らすことができれば、治療成果の大きな向上が期待できるため、レグテクトはアルコール依存症の救世主として期待されて登場しました。1日3回 1回1錠 食後投与です。

主な副作用は、下痢です。下痢は投与開始時に多くみられます。

レグテクト錠は、飲酒欲求につながる神経の過剰興奮を抑制する薬剤です。つまりアルコール依存では、中枢神経系の主要な興奮性神経であるグルタミン酸作動性神経の活動が亢進し、興奮性神経伝達と抑制性神経伝達の間に不均衡が生じると考えられています。レグテクトはアルコール依存で亢進したグルタミン酸作動性神経活動を抑制することで神経伝達の均衡を回復し、飲酒欲求を抑制すると推察されています。

この薬剤は、断酒の意思がある患者が、心理社会的治療を受けながら医師の指示通りきちんと服薬することで断酒維持を補助する効果があります。 服薬することの重要性を伝えたうえで1日3回の服薬を忘れないこと。

<<ノックビン>> <<シナマイド>>

古くから有る抗酒薬です。代表的なものがノックビンとシアナマイドです。これらの抗酒薬はレグテクトとは違い、飲酒欲求を減らすというはたらきは持っていません。「アルコールが体内で分解されないようにする」という働きをもっています。アルコールを分解解毒するにはアルコール分解酵素とアルデヒド分解酵素が必要である。これらの酵素のうち、アルデヒド分解酵素の働きをこの2種類の医薬品が阻害します。そして、アセトアルデヒドの血中濃度が上昇します。アセトアルデヒドの濃度が高いと頭痛、顔面紅潮、発汗、頻脈、動悸、血圧低下、悪心、嘔吐等の症状を伴うアンタビュース作用を呈します。服用中にこっそりと、ひっそりと飲酒をすると、地獄の苦しみが待っているということです。だまし討ちみたいな薬です。お酒は飲みたくてしょうがない(その欲求はこの薬剤では制御出来ない)。が、飲むと拷問的なアルコール地獄が襲ってくる。その繰り返しで「断酒」を指導していきます。自主的に服用する患者さんは殆どいないので,臨床上の効果は「??」でした。

第3の薬

セリンクロ(Select INCREASE CONTROL)  造語です

 この薬の最大の特徴はその基本的コンセプト「飲酒量低減薬」

そして

その服用方法

通常、成人にはナルメフェン塩酸塩として1 回10mg を飲酒の1~2時間前に経口投与する。

ただし、1 日1 回までとする。

** 服薬せずに飲酒し始めた場合には、気付いた時点で直ちに服薬すること**

この記載がこの薬剤の姿を物語っています。ポケットに忍ばせておいてふと気がついた瞬間にお酒で流し込めばブレーキが掛かるという事です。

薬理作用

正常者

アルコールを摂取すると、μオピオイド受容体とκオピオイド受容体のシグナル伝達を増強させて、それぞれ「快」と「不快」の情動を発現させる。(μ モルフィネの主作用なので「M]を使っている)

 

依存症では

アルコールによる「快」を求めて量や回数が増大→μオピオイド受容体のシグナル伝達が増大する。体は恒常性を維持しようとする→慢性的なμオピオイド受容体のシグナル伝達増加に対して→κオピオイドのシグナル伝達が増大する。→「不快」の情動が高まる

→この不快感を回避するために飲酒欲求が高まる。→飲酒コントロールのの不良状態

セリンクロの作用

選択的オピオイド受容体調節薬

μ κの両受容体に作用してシグナル伝達を調節する。

μオピオイド受容体に対しては拮抗薬 

κオピオイド受容体に対しては部分作動薬として働く

 

註  1

 

オピオイド 受容体

δ受容体(Delta-Opioid Receptor(DOP),OP1)

オ、中枢神経系に広く分布している。δ受容体は抗うつ作用、身体・精神依存あるいは後述のμ受容体より作用が弱いが鎮痛にも関与している事が知られている。

κ受容体 (Kappa-Opioid Receptor (KOP),OP2)

鎮痛や鎮咳、幻覚、せん妄などに関与する。

μ受容体 (Mu-Opioid Receptor (MOP),OP3)

モルヒネの鎮痛作用に最も関連がある受容体であり、モルヒネ(Morphine)の頭文字をとってμ受容体と呼ばれるようになった。鎮痛や多幸感などに関与する受容体と呼吸抑制や掻痒感、鎮静、依存性形成などに関与する

 

 

節酒薬の登場(第3の薬)のこと

数年前からその登場が待たれていた薬である。新しい節酒薬が発売される。治療の幅が広がる。いままでの治療薬は、使いこなすのが難しかったが、今度の薬剤の登場によって「アルコール依存症」は一般改行内科医で初期治療がされるようになるだろう。非常の幅広くアルコール依存症に対応出来るようになります。段階的に治療が出来るようになります。

 例えば、今晩の宴会では羽目を外してお酒に飲まれないようにしたいと思う中程度のアルコール依存症(WHOの判定カード基準)の患者さんにとって酒の上での粗相を少なくすることが出来ます。TPOに合わせて「セーブ」が出来るということです。飲酒中に服用しても節酒が可能なのである。

まだ臨床での使用が許可されていないので,飽くまで「未来予想図」ですが、期待できそうです。 ちょっと酒癖に困っている人達(本人とその家族)にとって、新しい「福音」になるかもしれません。

ハーム・リダクション

酒は人格を変えてしまう。酒宴の席での失敗で人生を台無しにしてしまう。そんな考えでお酒を忌み嫌い、悪者にしてしまう考えには賛成しません。お酒を人生の潤滑油に、心のオアシスにしましょう。でも、そう思っていても失敗する人が多いのも事実である。そんな時にとっても役立ちそうなのが「セリンクロ」だと確信している。

皆が考えている以上にお酒の害はあちらこちらにゴロゴロと転がっている。しかし、酒の席での出来事と片つけてしまい易い。諦めてしまい、赦している。先ずは啓蒙だと思う。

そして、セリンクロの登場を待ってハームリダクション的な治療が広がればと思う。

私の苦い経験

 冬の弘前は寒い。雪が一晩に何十センチと積もることもよくある。そんな冬、酩酊状態で車を運転していた(この時代も飲酒運転は道路交通法違反でした。検挙されれば大目玉だった)が、前が吹雪でみえない。止まっている間に寝てしまった。目を覚ましたら車の周りは雪の壁、バックするスペースだけ空いていた。きっと、除雪作業員が起こしてくれたのだ。

 「ねぷたまつり」の最中、山岳部のOBが集まって居酒屋で飲んだ。飲めば飲むほどに酒量が募り、その居酒屋さんのビールが無くなってしまった。暴れた訳では無いが、くだを巻いて大変だったと思う。

 最近、何時もと同量、ちょっと多いぐらいの酒量だと思っていても帰宅後、倒れるように寝てしまい。翌日記憶が跳んでいることが年一回ぐらい有る。大部グルタミン酸作動神経が優位だと自覚している。

 お酒の上での失敗は思い出せない程に盛沢山です。ものすごく反省をしています。思い出すのも赤面の思いです。だからこそ減酒療法薬に興味を持っています。

 

お酒を悪者として捉えているのではありません。酒の効用は十分に知っているつもりです。私自身、お酒は大好きです。これからも上手につきあって飲みたいと思っています。青信号、黄色信号、そして赤信号をきちんと判別出来るようにすべきだと思い始めている。

 

減酒治療については下記のウェブサイトに詳しく記載されています。

参考にして下さい。私の提案する「ハーム・リダクション」のことについても書いてあります。

https://gen-shu.jp/

                    脱稿  平成31年4月23日  脱稿

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