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オンライン〔遠隔診療〕始末記 企画・挑戦・撤退

オンライン(遠隔)診療始末記

. オンライン診療の光と影


タカサンは、今年の4月から遠隔診療を始める予定だった。全ての準備を整えて、「光り輝き」4月1日の解禁を待つばかりになっていた。が最後の最後に撤退を決めました。苦渋の選択でした。全く思いがけなく次々に現れる難題、予想もなく襲いかかってくる苦境は「大きな影」を落としました。その経過をもう一度冷静に振り返り書き留めておこうと心奮い立たせました。内容は、独断と偏見に満ちあふれていますが、私の心の変遷と本音です。


論旨は「第1回オンライン診療研究会(8月27日)」で発表したものと同じです。

1 遠隔地診療に取り組んだ理由


 わが故郷、八百津は杉原千畝と人道の丘、そして春のだんじり祭だけが自慢の山間部僻地である。人口は1万人プラスアルファ、人口構成の高齢化率も極めて高駆、人口減少も平均を大きく上回る。どうにか消滅可能性自治体には入っていないが、単なる算定洩れ、或いはものの数にも入っていないかもしれない。時代の流れで80歳以上の高齢者で自動車運転免許書を自主返納をされる方は多いが、公共交通手段が発達していないので「交通の便が極めて悪い」。悪いというよりも劣悪である。地方創生を唱うのであれば公共交通機関網に対する根本的な対策なくして語ってはいけない。医療の分野でいえば、医療を受けたくて受けられない状況の住民が余りに多い。勿論これまでもそんな状況に手をこまねいてきたわけでは無い。無料患者さん送迎 用ワゴン〔ほのぼの号〕を平成12年〔200年〕4月から運行している。曜日毎に運行場所を決めて運行している。これまでに多くの患者さんに利用して頂き喜ばれてきた。しかし、それだけでは補いきれないのも事実である。何か外に私に出来ることが有るのではないか?そう思って過ごしてきた。 遠隔診療のことが新聞に、医学雑誌に掲載され始め、ダイレクトメールが届き始めたのがこの2.3年である。この新しい潮流に乗ろうと決めた。
 註  1
2014年 日本創世会議が発表した「消滅可能性自治体」896のことを示す。
  註 2
東京・大阪・名古屋などの公共交通機関網の発達した自治体では未だに公共交通機関無料パスが配られているようである。余りのことに調べてみる気にもならない。

 1.遠隔〔オンライン〕診療に対する私のスタンス


 そう思い立ち、一昨年頃から資料を集め始めた。そして、遠隔地診療に対してはこんなスタンスで対処したいと思い始めていた。診療技術という分野では電子カルテの導入以来の久しぶりの大改革だと思っています。医療の通販、アマゾンが始まる。 アマゾンが1994年に書籍販売を始めた時、誰が今日の大隆盛を予想したでしょうか。医療と本の通販を同列で論ずることは余りに不遜であることは承知しているつもりです。が、それに匹敵する大改革になったら素晴らしいなあと思って取り組み始めました。
レセコンの、電子カルテの導入、レセプト請求のオンライン化に対してもこれからの時代の先取りとして率先して導入してきた経験から、今度はもっと大きな「ビッグ・バーン」になると予想した。今も〔平成30年8月29日現在〕そうなると信じている。

1. 遠隔診療の歴史


 1997年、平成9年に遠隔診療という考えは芽生えました。
初診・急性期疾患は対面診療
慢性期疾患の安定期
離島・僻地に限定
診療行為として認定されたことに大きな意味がありました。
 平成28年の未来投資会議で「遠隔診療の推進」が決まりました。
安倍総理のたじろがない政治姿勢に好感を持っている私としては百人力の勇気が湧きました。これから新しい時代が始まる、勇気百倍の思いでした。
 平成29年5月モデルケースが示されました。


福島県で阿倍首相自ら遠隔診療の疑似体験されました。
震災後、故郷を離れて生活している人達に、明るい材料でした。
追い風が吹き始めました。ゴルフでいうところの「フォローの追い風」です

1.私の取り組み
    仲介業者の決定


 2月中旬、検討の結果、医師も患者さんもスマート・フォンで対応出来る「ポケットドクター」を仲介業者として選定しました。その他の利点としては、他の業者ではカード決済のみであったり、処方箋の郵送が義務つけられていました。

註  1
  ついでに申し添えておきますが、オンライン診療は「院内処方の医療機関」がよりベターだと思います。診察から薬の宅急便配達まで一元化されるからです。つまり院外処方箋を持って薬局に行く手間が省けます。僻地・離島の方は是非、院内処方箋の医療機関を選んで下さい。手前味噌になりますが、当クリニックも「院内処方」の医療機関です。

  ホームページでの公式発表と宣伝
2月下旬には佐藤クリニックのホーム・ページに「お知らせ」を掲載していました。
新しい、診療形態の始まりである。
当クリニックでも始めます。
皆で盛り上げていきましょう
期待度150%の私の心意気を書き記しました。

1.示された改正案


平成30年3月中旬に示された、主な改訂点数は表に示しました。
オンライン診療料とオンライン医学管理料の新設でした。共に月1回だけ算定可能です。
 遠隔診療が認められる疾患のグループが発表されました。以下の管理料が算定出来る疾患を治療しているケースのみが遠隔診療の対象になりました。一般的には特定疾患医学管理料の算定出来る患者さんが対象です。
この辺りで、チョット訳が分からなくなり始めました。
遠隔診療と特定疾患医学管理料〔外にもありますが、代表して・・〕の算定出来る疾患との結びつきが理解出来なくなってきました。

1. 具体的に

症例 1 を解説します。

解説1
高血圧の病名があるから「オンライン診療」対象患者
 ①5月1日にアムロジピン   5MG  30日分処方
 ② 5月10日にウリアデック 20mg  30日分処方
   共にオンライン診療 可能である
   但し、オンライン診療料  オンライン医学管理料は 月1回

解説 2
オンライン診療のあとに対面診療をした場合、その月は対面診療月となります。
 ③5月18日  咽頭炎で対面(急性疾患は遠隔診療の対象外)
   ①も②も対面診療になります。
そして、
遠隔診療は6月・7月になり、対面診療は8月・・ずれてきます。
 イレギュラー診療が続くと患者さんに「来月はオンラインですよ」
 「来月は対面診療をお願いします」との毎回の説明が必要です
 間違いが起こる原因。

解説3
眼の痒みがあり、「パタノール点眼」を希望。3年前に処方したことがあっても、アレルギー性結膜炎の病名がないので対面診療が必要です。契約時に以前に治療の対象としたことのある病名を沢山記載しておく必要があります。病名を少なくという大原則からは、外れます。

解説4
不安で寝られないことがある→ワイパックス(心身症・神経症)を処方 適応外
腰痛に対してロコアテープ処方                 適応外
対面診療 その日のレセプト点検の折りにカルテに症状を記載して、神経症の病名
     変形性膝関節症の病名追加→レセプト上は問題ありません。

     オンライン診療  多分査定 

症例2 を 説明します

解説1
 対象管理料となる疾患がないので、 この時点でオンライン診療は出来ませんと説明
解説2
 父親が転勤するのでとオンライン診療を希望。
 対面診療で当該疾病を診断し病名を追加しても、有効になるのは半年後からです  

 1.気になること、納得がいかない  その①

予約料を別途請求
1996年から 予約診療と予約料の徴収が認められていますが、予約料が似合うのでしょうか? これまでに経験がないので違和感が強い。算定徴収することをを止めました。

註  1
 3月下旬の時点では予約料という呼称だったのですが、その後、名前が変わりました。

 オンライン医学管理料の請求
 5月と6月のオンライン医学管理料を、7月の対面診療時に徴収する仕組みが納得出来なかった。

1.気になること 納得がいかない その② 

「緊急時に概ね30分以内に対面診療が可能な体勢作りを維持する」という記載が突然(?)偶然(?)加わりました。
守備範囲が30分以内という規程は私の方針とは「相容れません」
この診療技術の最も重要なポイントは離島・僻地の患者さんへの便宜を図る事だったはずだ。
これでは、オンライン診療ではあっても、遠隔診療ではなくなってしまう。
誰もが、患者さんも医療従事者もこう思っていました。
患者さんにとって「非常に受診しやすい環境」になってくると
現実は「非常に制約が多く可動域の狭い、扱いずらい診療環境」
になってしまった。医療サイドの負担が予想外に多い
オンライン診療する医師にも、その事務仕事をする事務職員にもかなりの負担である。

1、 タカサンの考える遠隔診療の改良点

試行錯誤を重ね、今回のこの機会に色々調べました。そして今考える変更点を列挙してみました。
 該当疾患を限定する理由が私には分からなかった。勿論初診や、急性期疾患は除外です。
 契約書に記載されていなくても当該医療機関で治療歴があればその日時を記載する事によって免罪とする。
 一度も治療したことにない疾患は当然対面診療をする。
3ヶ月事の対面診療では患者さんにとっての利点が少ない。当クリニックでも通院が困難、或いは症状が安定している患者さんには2ヶ月、希望されれば3ヶ月処方をすることは有ります。一段の配慮が必要だと感じている。
オンライン診療と対面診療の同一月算定が許可されない理由が分かりませんので、反論できません。でも両立させて欲しいですね。
30分以内で対面診療可能ということを一般の診療にも適応されたらと思うとこの規程早めて欲しいですね。
診療報酬のことは余り興味がないのですが、次のシミュレーションをみて下さい。意図を充分にくみ取ることが出来ません。

1. 診療報酬シュミレーション

同じ薬剤を同じ日数処方してこの点数の差をどう解釈していいのか分かりません。
点数の絶対値ではなくて、両者の比較です。

 「医は仁術(ジンジュツ)」ではない。又「医は算術」でもないです。 「人はパンのに生きるにあらず」であり「糊口を凌ぐ」事が出来れば良いのだと思っています。
今回の遠隔診療、患者さんの利便性が高まればそれでいいいと考えて取り組んでみました。現実は、非常に窮屈は制度になってしまいました。医療サイドに負担が大きく、そしてそれでありながら、診療報酬は低く抑えられました。その差を自由設定の予約料〔名称は変更されました〕で補う考えに個人的には「頷く」事は出来ませんでした。

1. 最後に
大いなる希望を懐いて、時代の最先端を担うのだと意気込んだ「オンライン診療」ですが、小生の思いとは違う方に舵が切られてしまいました。開始直前に「参加中止」を余儀なくされてしまいました。撤退を決定しました。
仲介業者「ポケット・ドクター」とは3月の末に契約を破棄しました。ギリギリの選択でした。「ポケドク」との契約料と定額の使用料、オンライン診療専用のスマートフォンの購入と毎月の定額使用料など、出費が重なります。前述のシミレーションなどでも示しましたが、診療報酬は予想を下回りました。キャッシュカードの手数料も追い打ちを掛けました。大蔵省にも「出費が多くて収入が少なくなる」と指摘されています。撤退止むなしです。残念でした。

. 報道ステーション
7月26日の報道ステーションでは「オンライン診療特集」が組まれました。富川キャスターによって、「オンライン診療の流れ」が説明されました。日本中の医療関係者の間でもオンライン診療に対する期待が膨らんでいました。
昨年の12月からオンライン診療をしてみえる先生への談話、講習会の会場でインタビューに応じた医師の話しぶりからも遠隔診療への期待が滲んでいました。
後藤謙次さんがオンライン診療の未来を話され日本が率先して世界基準となるようなものを造らなければいけないと力説されていました。
しかし、解説の中で間違いも沢山ありました。テレビを観ながら、違う・ちがう・誤解だよと叫んでいました。

現在オンライン診療を行っているのは全国で900医療機関ぐらいのようです。
ポケット・ドクターでは、東京 26件、東海三県 ナシ 大阪3件ぐらいです。
世界各国の現況
アメリカ合衆国
1993年 遠隔医療学会  創設
ネットワーク       200以上
参加医療機関     30.000以上
EU
2020年に患者のデーターの共有化をして、遠隔〔EU地域内〕のオンライン診療を簡略化しようとしている。

最後の最後に,
Takasanは、どうするのか?どうするつもりなのか
現在、69歳である。あと5年もすれば第一戦からは退くだろう。が、多分まだ元気だ。診療室に一角を借りてオンライン診療をやろうと思っている。数ヶ月毎の対面診療もこなつもりだ。老後の、引退後の楽しみにする。
何といっても、当クリニックは院内処方である。オンライン診療では、その長所を十二分に活かせるのだよ。だって手元に薬が届くのだからね。
                     脱稿  平成30年8月29日 

本原稿をまとめるには東名トスメックの近藤さん、スズケンの米谷さんに大変お世話になりました。しかし原稿の最終責任者は佐藤孝充〔タカサン〕です。

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